どこへし

カス

こいつは俺が育てたんだ!

「俺には弟子が居る」

それが彼の口癖だった。

 

 

彼の周囲の人間は、彼のその発言に対し疑問を抱いていた。

 

それもそのはず。彼にはこれといった特技もなく、その「弟子」は未だ姿を現していなかったのだ。

 

 

最初は、皆彼を嘲笑った。

中二病か?」

「おかしくなっちゃったの?元からだけど」

 

しかし、当の本人はというと。

「俺には弟子がいる!」

 

ただ、そう繰り返していたという。

 

次第に、彼の周りからは人が居なくなっていた。

皆、飽きてしまったのだ。

 

しかし、中には彼を盲信する者もいた。

彼の発言を鵜呑みにし、崇め奉る人々。

ごく少数ながら存在していたのだ。

 

 

月日が経ち、舞台はとある家電屋。

偶然、彼を発見した青年は、次のように語った。

 

「テレビの展示販売あるでしょう?彼、あれを指差しながら叫んでたんですよ。こいつは俺が育てたんだ!って。それも物凄い剣幕で」

 

そう。彼の言う「弟子」とは、売れない子役時代を経て、大人気俳優へと成り上がったA氏(仮称)の事だったのだ。

 

 

 

 

人の思い込みとは、非常に恐ろしいものである。

いかなるコンテンツにおいても、自分が育て親であると錯覚したくないものだ。客は客。

 

 

 

※このブログはフィクションです。